野村仁の個展「時空と生命:表徴化予想と顕れ」を開催します。
1970年代より手がけるスコアシリーズの最新作《'CMB' score: 13.8 Billion Years / Temperature Fluctuation》の発表を機に行う、アートコートギャラリーでは2年ぶりとなる個展です。
重力や時間とともに変化する物質の様相をカメラで捉え、活動初期より写真を主要な彫刻作品とする野村にとって、スコアシリーズは天体にレンズを向ける転機と同時に始まり、今日まで継続して制作している重要な作品の一つです。
5本線を写し込んだフィルムでアトランダムに撮影した月を音符と見立てて制作したスコア作品《'moon' score》(1975-)は、実際に演奏してみると自然な音楽に聴こえてくる。この発見から、野村は日常を取り巻く現象、とりわけ人が知覚できる範囲を超えて存在する現象の「モト」となる構造や物の成り立ちへの関心を深め、宇宙の起源、地球上の生命誕生へと制作テーマを拡げていきました。
今回発表する《'CMB' score:13.8 Billion Years / Temperature Fluctuation》は、ESAの探査衛星PLANCK(プランク)が観測した宇宙背景放射(CMB)により、2018年に明らかになった宇宙全体図の温度マップのうち、特定の星座座標を選択し、そのエリアから届く電磁波を読み取ることで譜面化を試みたスコア作品です。
宇宙背景放射は宇宙誕生からしばらくして温度が下がり、自由電子に遮られることなく宇宙全体が直線で進む電磁波で満たされた瞬間(宇宙の晴れ上がり)の最初の電磁波であり、宇宙の全方向から現在の地球にも到達し続け、非常に弱いマイクロ波として観測することができるといわれています。野村は、現在観測し得る最古の電磁波が持つ膨大な宇宙情報から抽出したサウンドで展覧会場を満たし、空間を構成します。
本展では、宇宙発生の形を内部構造とともに三次元で表わし1980年代に制作したガラスの連作や、宇宙から飛来し地球上の生物のRNAやDNAを形作ったとされる隕石、太古の地球に酸素を生み出したストロマトライトの化石、生態系の基盤を形成した陸上植物の化石などを用いた作品群(いずれも未発表作)を展覧し、悠久の時空の旅を経て今ここに在る物質同士が宇宙と地球上の生命との深いつながりの物語を語りあいます。
また、宇宙空間に顕れるさまざまな現象の形を身近に鑑賞できる形態へと置き換え、3DCGイメージ、ブロンズ、漆などの多様なメディアで制作に取組む野村ならではの実験精神とユーモアに溢れた新作の数々もあわせて紹介します。
---数十年後、我々が、宇宙空間に浮かんで生活することになり、宇宙の人工的な空間が日常となるなら、精神と身体に与えるインパクトは計り知れません。「畏敬」等について再考することにもなるでしょう。そうして、人の根本が異なってくると思いますが、そのような時においても、アートは限定されたものではなく、拡がりがあり、人の生存について、充分に語り知らせることができると考えます。 (*)
自然の事象にレンズを向け半世紀を越え、今なお野村の眼差しは表現の兆しとなる光を追い求め、未来の時を待ち続けています。