1970年代、油彩画よりも「カッコいい」という美的価値を付与されたのがシルクスクリーンなどによる写真製版版画でした。網点ドットによって疑似的階調を施されたハーフトーンは、低質の写真を拡大する方便のひとつでもありました。
しかし1980年代に写真プロパーを凌駕する高度な技術に裏打ちされた写真アーティストたちが生み出す、巨大サイズでありながらも粒子のアレることのない高精細な写真プリントが出現すると、網点ドットによるハーフトーン画像は現代美術の表舞台から淘汰されていきました。
ところが20世紀末から今日にかけて高解像度の画像が世界にあふれ始めると、皮肉にもボケたりブレたりした不鮮明画像のもつ魅力が新たな美的価値として注目されるようになってきました。
本展は、現代美術から放逐されたかにみえた写真製版などによる版画と、高精細の写真プリント、さらには写真のような絵画や版画など約90点による三様の多彩なマチエールを比較することによって、デジタル時代における不鮮明画像の新たな美的価値を確認するとともに、写真固有の連続階調の意義を再考するものです。