棟方志功は板画の美しさについて、「とくに木板画の美しさは、木から生まれる線や、点や、面(線でも点でもない、それ以外の板画の部分のことをいう)とから生まれてきます。」「彫られた線や、点によって、墨よりもさらに黒く、白よりも白くという美事さに、詩をふくみ、余韻嫋嫋(じょうじょう)として極まりのない美しさがただよい、摺られた板面に湧き没するところまで、できたものでなくてはいけないのです」(『板画の話』1954)と語ります。彫刻刀で彫った部分が白い点や線となり、残りの板の部分が黒い面になる板画。棟方はその点と線と面から生まれる白と黒の対比こそ美しいとし、日本伝統の木板画の美しさを追求し続けました。
この白と黒の絶対比を生み出すために棟方は装飾表現を巧みに扱いました。その出発点となったのは1935年制作の《萬朶譜》。当時、油絵から転向し板画の道を模索する中で「板画は何か普通の絵とは違う、だから絵であらわせぬものをつくらねばならない」「絵を模様化することが一番の板画への早道ではないか」(『板画の道』1956)と感じた棟方は、花木が一杯に咲き誇っている様を描き表したこの作品で、遠近法を用いて空間の広がりを表現する油絵とは異なる、対象を模様化するという独自の板画表現を生み出します。そして棟方が数多く描いた人物像では、白と黒のバランスをとるために多様な表現が試され、白い体、黒い体、模様の彫り込み、彫刻刀の使い分けなど、時代によって点と線と面、装飾の扱いや自由度は変化していきます。
こうして白と黒を基点とした板画の美しさを追求するからこそ、「油絵は原色で混りっ気のないものを描こう、板画では、黒と白を生かしてゆこう」(『板極道』1964)と話すなど板画、倭画、油絵、書それぞれの美しさをめざして描きました。夏の展示では、板画を中心に展示することで棟方がめざしたそれぞれの美しさをご紹介します。