公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第270回として、「巨木巡礼 國府田仁彌展」を開催いたします。
版画家・國府田仁彌さんは、父親が大工だったため身近に木のある環境で育ち、年賀状などを木版画で刷ることが好きな小学生でした。専門学校で建築設計を学び仕事をするうちに、設計図面の作成よりも風景などを自由に描きたいと思い、悩んでいた時に版画家・棟方志功*を知ります。それまで絵は見たままに描かねばならないと思っていた國府田さんは、感じるままに描くその自由奔放なスタイルに衝撃を受け、志功に近づきたい一心で木版画、水彩画や油彩画、篆刻など様々な表現を興味の赴くままに勉強し始めました。
やがて子供の頃から好きだった木版画に絞り本格的に制作するようになります。当時國府田さんの周辺には木版画を教えてくれる伝手はなく、家業の大工を継ぎながら独学で技法を習得し市の展覧会などに出品していました。独り奮闘する國府田さんの様子を見た水彩画家・茂木直喜(1926-2010)が「版画技法についてアドバイスはできないが、描くことに行き詰まった時は相談しなさい。」と手を差し伸べ、1983年から茂木の指導を受け國府田さんは県の展覧会、白日会展や日展に出品するようになりました。
巨木をテーマに据えた國府田さんは、無形文化財で常陸大宮市の特産品である西ノ内和紙を使い、墨色の木版画で画面いっぱいに枝を這わせて力強くおおらかに大木の姿を刷り出します。そこに日本画技法の裏彩色や漆の技法である蒔絵などを施し巨木の神秘的な生命力を色鮮やかに表現しています。
今展の前期は初期から2013年まで、後期は2013年から現在までの作品で構成し、合計18点を展示いたします。
公益財団法人常陽藝文センター
*棟方志功(1903~1975)…青森県出身の版画家。日本人の原始美術にも連なる力強い木版画で、1956年ヴェネツィア・ビエンナーレで日本人として初めてグランプリを受賞、1970年に文化勲章を受章。