「小袖」とは現在の「きもの」「和服」の古称です。もともとは公家装束に見られる大袖形式の衣服の下に着るものであり、庶民の日常着でしたが、室町時代半ば頃には各階層共通の表着として定着し、その後の服飾の中心的地位を占めることになりました。
染や刺繍などの加飾技術の充実にも支えられて、小袖には多彩な文様が自由自在にあしらわれることとなりました。文様の対象となったものは植物、動物、器物、風景…と際限がなく、まるで世の中のありとあらゆる事物を取り込んでいるかのようです。中には、現在でもめでたい文様としてお馴染みの「松竹梅」のように特別な意味を持つものや、一見単なる風景文様のようで実は古典文学を表現しているものもあります。こうした文様の表現の多彩さ、そして内容の豊富さは、それを生み出した当時の人々の美意識や関心を私たちに示してくれます。
今回の展覧会では、当館が所蔵する小袖類を中心に、その文様に見られる風物や主題に着目して、これらをテーマごとに展観します。文様の由来やその表現の美しさにふれると共に、文様として取り入れられた物や主題を、当時の人々がどんな目でとらえていたかを探っていきます。加えて、小袖と共に身の回りを飾った帯や、櫛・簪などの髪飾りも展示します。現在見ても馴染みのある文様、反対に意外に感じられる文様など、往時の人々が身にまとった文様の諸相をお楽しみ下さい。