透明な水槽に一定の間隔で落ちる水滴は、ゆらめく波紋を生み出す。ゆっくりと弧を描き、または繊細に交わりあいながら複雑な紋様を描きだす。振幅と衰退を繰り返しながら、空間は水の陰影で満たされてゆく。 小宮伸二の作品は、オブジェ、インスタレーションを中心に、木、竹、和紙、布、金属、土、水などの触覚的指向性を強く感じる素材を用い、静かな呼吸を丁寧に紡ぎとっていくように、常に現象を内包した空間性を追求する。 歴史が時の経過を刻みこんできた場所、すでに何かしらの空気を有している空間を求め、アルプス山麓の城跡、旧ユーゴスラビア(現セルビア)王国時代の舞踏会場、ウィーンの歴史的建造物、中世ヨーロッパの教会、日本の寺院などで展開されてきた水と光のインスタレーション。今回舞台となるのは江戸時代末期に建てられた、もと材木問屋の蔵。 土と木が都会のざわめきを遠ざける非日常の空間に、時の魚が泳ぎ、記憶の舟が浮かぶ。