「旅」を題材とする絵画といっても、その表現方法はさまざまです。例えば「名所絵」には旅の名所を描いたものが多く、歌川広重「東海道五拾三次」は街道筋の情景を描いて旅行気分を盛り上げます。また、明治初期の浮世絵版画の中には蒸気機関車が牽引する列車が描かれるものがありますが、こうした作品は新時代の到来とともに旅のスタイルの変化を象徴的に表した名所絵の一種ともいえるでしょう。
たとえ名所でなくとも、風景画の中には画家が全国各地あるいは海外を取材して描かれたものがあります。大分出身の画家髙山辰雄は東京美術学校進学後、東京に在住して制作活動を続けますが、その髙山もヨーロッパや中国を旅したほか、故郷大分を旅して取材し、印象深い作品を残しました。
また、旅は必ずしも同時代のものだけを描くとは限りません。画家は時間を超えて古い時代の旅人や旅の様子を描くこともあります。空間だけでなく時間を「旅」する絵画もあるのです。
今回は近現代を中心として「旅」にちなんだ作品を紹介します。絵画を通して旅行気分でさまざまな場所に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。