上村次敏(うえむら つぐとし)(1934-1998)は福岡県に生まれ、1967年から亡くなるまで所沢市に在住していました。若くして、植物のような形が増殖する強烈な色彩の水彩画で知られるようになり、1959年にはシェル美術賞展で3等を受賞、63年にはパリ青年ビエンナーレに選ばれています。1980年代からは、テンペラの技法によって、天地が反転する不思議な空間を描きました。イタリアの都市やブリュゲールなどの名画を、複数の視点から細密に描いた作品は、まるで迷宮に迷い込んだかのような感覚をもたらします。
五月女幸雄(さおとめ ゆきお)(1937-)は栃木県宇都宮市に生まれ、さいたま市に住んだ後、1986年からはパリを拠点に活躍しています。初期には、様々な素材を組み合わせた立体的な構成や、生きた人間を展示するなど実験的
五月女幸雄「束の間の幻影」1989年
な活動を行います。その後絵画に移行し、自然石、新聞紙などの日常的な事物と風景の虚像・実像が交錯する作品を描き、1978年にはインド・トリエンナーレに出品しました。パリ移住後の、まるで写真のような精緻な描写によるその絵画は、日常と幻想が渾然となった象徴的な空間を出現させます。
この展覧会は、二人の「迷宮と幻影」の世界を、その出発点である1960年代から後年の作品によって回顧しようとするものです。