戦後の宇都宮の美術を支えた矢口洋の回顧展を開催いたします。1916(大正5)年、宇都宮市戸祭(現・星ケ丘)に生まれた矢口洋は、栃木県師範学校卒業後、経済的理由によりいったんは豊郷尋常高等小学校(現・宇都宮市立豊郷中央小学校)の教師となりますが、1941(昭和16)年、東京美術学校(現・東京芸術大学)に入学し美術の勉強を深めます。そして1944(昭和19)年、卒業と同時に帰郷して栃木県師範学校に教官として着任します。
絵画に対する思いが深くなる一方の矢口は、1952(昭和27)年、大きな決断を下し、私費にてフランス留学を果たします。矢口の旺盛な向学心は早速成果を結び、1953(昭和28)年、本県出身者として初めてサロン・ドートンヌに入選を果たしました。そしてその成果が認められ官費留学生として、さらに一年間フランスに滞在し絵画の研さんと美術教育の研究に励みました。
帰国後、矢口は華々しく画壇にデビューします。1955(昭和30)年には日展にて特選候補になり、翌1956(昭和31)年には日展、光風会展においてともに岡田賞を受賞し、画壇でも注目される画家となっていきます。また、同年には、「日仏具象作家協会」を結成し展覧会も立ち上げ、具象絵画と抽象絵画のあいだで論争を巻き起こしていた当時の美術界に一石を投じ、大きな反響を呼びました。
その後も作品の制作はもとより、宇都宮大学教育学部にて美術教育の実践にも精力的に活動し、多くの優秀な人材を育て上げました。一貫して宇都宮を制作の基盤として、戦後の美術界において指導的な役割を果たしました。
この度の展覧会は、矢口洋の作家活動の全貌を紹介するもので、初期から晩年にいたるまでの作品166点を展示します。