加茂郡太田村(現美濃加茂市)出身の坪内逍遙(1859-1935年)は、明治から昭和にかけて文学、演劇、教育など多方面に功績を残した人物として歴史に名を刻んでいます。逍遙が教鞭を執った早稲田大学、そして逍遙の故郷である美濃加茂市では、ゆかりの偉人として坪内逍遙を紹介してきました。美濃加茂市民ミュージアムは今年で開館20周年を迎えます。この節目の年、坪内逍遙が手掛けた多くの「書」の作品を通じて、偉人ではなく一人の人としての顔に焦点をあてます。
早稲田大学と美濃加茂市民ミュージアムでは逍遙が筆でしたためた書の作品を多数保存しています。逍遙は青年期、名古屋にいた時分に書家につき、書を学んでいます。50歳の時には、東京大学の同窓生であり早稲田大学初代図書館長の市島春城の勧めで三恵五江に運筆法を学びました。以降は太い筆も使い、求めに応じて揮毫することもしばしばあり、執筆者に乞われて書いた逍遙の序詞が掲載された本なども刊行されています。中国の古典思想や漢詩の言葉などを表した力強い書作品のほか、自作の和歌を書いた短冊や歌に絵を添えた書画なども多く遺されています。それらは逍遙の趣味嗜好や文人気質を浮かび上がらせるものであり、逍遙が心を通わせた人々との関係を証するものでもあります。
早稲田大学坪内博士記念演劇博物館と美濃加茂市民ミュージアムで所蔵している逍遙の筆になる書、和歌、画賛などの作品を中心に展示します。逍遙の筆の妙技をお楽しみいただきながら、逍遙が親しんだ枯淡の世界に思いを馳せ、親しむべき人としての逍遙の姿を垣間見ることのできる展覧会を目指します。