スイスの造形作家であり、バウハウス初期ワイマール時代の指導者のひとりでもあったイッテン(1888-1967)は、小学校教師になった1913年から亡くなる1967年まで、独自の造形理論・形態論・色彩論・美術教育論に取り組んできました。とりわけわが国では戦後の美術教育界でよく知られています。しかしながらこれまで、そうした理論家としての側面を育んでいた個性豊かな絵画や水彩など、その実作品がまとめて紹介されたことはなく、また評価の高い造形指導の内容が、実作例に基づいて検証されることもありませんでした。
三部によって構成される本展は、広い視野からイッテンの創造活動が再考できるはじめての機会となっています。彼は、「人間尊重こそすべての教育の始まりであり終わりである。教育はひとつの冒険的事業」なのだと述べていました。その言葉のアクチュアリティ(今日性)が、彼の世界を再検証しようと試みる本展において、明らかになることを願います。