このたび菊池寛実記念 智美術館では「志野」の重要無形文化財保持者であり現代志野を代表する陶芸家、鈴木藏(おさむ)(1934年~)の志野茶碗を中心とする展覧会を開催します。志野は、ざんぐりとした焼け味の土に長石の白釉を合せることで生まれるあたたかみのある白や、窯の熱により引き出されしる鮮やかな緋色が魅力のやきものです。岐阜県の東濃地方で桃山から江戸時代初期にかけて優れた茶陶や食器が生産された後、技術が途絶えていたものが、昭和初期になり陶芸家や学者、愛好家らによって注目され、研究、復興が進みました。
20代より創作の道に入った鈴木は、郷里のやきものである志野に取り組むと、現代の作家ならではの技術と創造性をもって挑み、数々の陶芸展で賞を重ね評価を高めました。土や釉、焼き上りなど桃山の志野の美しさを見据えながら、独自の改良を加えたガス窯による焼成や釉薬試験を重ねて作られる鈴木の志野は、多彩な装飾表現と釉調の豊かさ、量感に富んだ形の強さを特徴とし、独特の存在感を放ちます。本展の副題は松尾芭蕉の「箕(おい)の小文」より取られており、作り手の個性や創意が自他を超えた先に生まれる、不易流行のかたちを目指す鈴木の作陶姿勢を示したものです。本展では鈴木のライフワークである志野茶碗の未発表作に加え、花生、香炉、大型作品など新旧作を合わせ、60点程の作品をご紹介いたします。