タイトルの『破裂 OK ひろがり』は元々、インドのトラックやリキシャ―の後ろに描かれた“Sound OK Horn”という文言から来ています。インドにはほとんど信号がなく、車同士がクラクションを鳴らしながらその場その場で交通上のコミュニケーションをとっています。その光景を目にして(耳にして?)、局所的に響きわたる音があちこちで連鎖し、空間を広がっていき、中間的な構造を介さずにインド亜大陸の広大なスケールに至る、という音響的なイメージを持ちました。
個々の車を見てみると、“Sound OK Horn”や“Horn OK” “Sound Horn”などのサインが「クラクションを鳴らしてください」という意図で(ほとんど手書きのレタリングで)描かれています。この呼びかけがトリガーとなってクラクションの連鎖を引き起こしているというのも興味深いのですが、“Sound OK Horn”の英語としての不自然さも面白い。
英語としては“Sound OK Please”あたりが適切なのだと思いますが、街中にあふれるこの不思議な注意書きを見ていると、OKが図像的に中心に来ることで、文法的な繋がりや束縛から離れ、言葉が図像的に散らばっていくように見えてきます。三つの語の間にある空白は文法上のスペースというより、空間的な意味での空白として考えられるのではないかと思っています。
たとえばアマゾン火災によって二酸化炭素が増加し、二酸化炭素が地球規模に充満し、かつ広大な焼け跡ができていること。すこし歴史をさかのぼると、近代に酸素が発見されるまで、空気は「空気の基」と「火の物質」からなると考えられていたということ。局所的に起こっていることが空間を通じて伝播する。それに先立って空間が備えている、離散の契機について考えています。(2020 8/9)