「大津絵の筆のはじめは何仏」松尾芭蕉
江戸時代、東海道を行きかう旅人相手に「おみやげ品」として売り出されたものが「大津絵」です。大津の逢坂峠から追分宿あたりで売られ、はじめは旅の安全や現世利益の仏画からスタートしましたが、次第に「藤娘」や「鬼念仏」といった世俗的な画題に人気が集まり、明治維新とともに街道みやげの役割を終えたといわれています。
ところが、チープで単純素朴な絵に心奪われた人々が、明治以降ひそかにコレクションに加え、大津絵は美術品として注目されたのです。コレクターは明治末の浅井忠、富岡鉄斎にはじまり、大正期の山内神斧、柳宗悦、そして戦後の小絲源太郎などです。この展覧会は、そんな大津絵に魅せられたコレクター群像をひもときながら、日本民藝館をはじめとする名品約140点を味わう、美術館初の試みです。ピカソも愛して秘蔵した、ユルくて愛らしい大津絵に、いま熱い視線が注がれています。