木漆工芸家・十時啓悦(本学工芸工業デザイン学科教授)の退任を記念して、本展では新作や近作を中心に、十時の手仕事の現在を紹介します。
木漆工芸では木材を加工して成形する「素地作り」と、表面を塗装する「漆塗り」に分業していますが、十時は全行程を一貫して自らの手で行っています。その根底には、造形への深いこだわりと、「現代の暮らしの中で生きる作品を作りたい」という強い思いがあります。
椀、皿、盆、酒器、花器、家具など生活を彩る調度品として、多くの人が手にとりやすいよう、十時は高価な素材をあえて使わず、無駄のない手数とシンプルな仕上げで制作します。洗練された手法によって、素材を活かし表現性を高めると同時に、日常使いのなかに新たな「用の美」を追求してきました。
約100点の作品とともに、暮らしに彩りを添える木漆工芸の魅力、木と漆という自然素材が見せる表情の豊かさを紹介すると同時に、制作工程についての解説展示によって、十時特有の技法を紐解きます。