紀元二千六百年奉祝(ほうしゅく)美術展覧会に出展するため制作された《北京官話》は、洋画家・中村研一の戦前期を代表する作品の一つです。令和元年に現存が確認され、はけの森美術館では《北京官話》新収蔵を記念した所蔵作品展を今春に計画していました。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により記念展示はやむなく中止に。感染拡大防止には必要な措置でしたが、既に展示作業も完了し来館者に見てもらう日を待つ《北京官話》に、美術館スタッフは忸怩たる思いでした。
緊急事態宣言が解除されたら、改めて《北京官話》の紹介をしよう―その思いから半年、本展ではさらに展示内容を拡充することを目指しました。
《北京官話》はいわゆる「チャイナドレス」を着用した女性像ですが、日本近代洋画壇には「民族服の女性像」という系譜があります。中村にとっても民族服の女性像は魅力的なテーマであり、戦後に至るまで多くの作品を生み出しました。
そして、中村研一が生涯を通じて追及したのは「ほんとうのフォルム」。モデルの外見は文字通り千差万別です。そうした人々の容姿―人体のかたちに対し、中村はどのようなまなざしを向け、そのフォルムをカンヴァスに描き留めたのでしょうか。
本展では《北京官話》のお披露目に加え、さまざまな人物を描いた油彩画や素描、水彩画など幅広く展示することで、中村研一が追及した人体のフォルムを概観します。