岩手の戦後美術を語るうえで欠かせないのが、岩手県立美術工芸学校の存在です。終戦後間もない1948(昭和23)年に全国に先駆けて誕生した美術学校で、美術評論家の森口多里を校長に、中央で活躍していた深澤省三、紅子、舟越健次郎、保武兄弟や、堀江赳、奈知安太郎などの地元出身の美術家が指導にあたり、他に類のないユニークな教育で多くの画家や彫刻家を輩出することになります。さらに、この学校が起点となりその精神は発展的に岩手大学の特設美術科開設へと受け継がれ、全国から多くの学生が岩手に集い、盛岡を中心にハイレベルの表現活動の華が咲くことになりました。
60年代には、この学校出身の大宮政郎や柵山龍司、二科会を中心に中央で活躍していた村上善男に橋本正や杉村英一を加えて結成された「集団N39」の先鋭的な活動は、岩手の美術運動に拍車をかけ、次代を担う若者の目標となっていきます。その後、団体展もさることながら多くが個展を中心に活動を展開し、なかでも版画の概念を覆すような表現手法で話題を呼んだ百瀬寿を筆頭に独自の世界を展開する個性的な画家や彫刻家を多く輩出することになります。石彫の照井榮や版画の戸村茂樹に代表されるように、県内にとどまらない中央や世界での飛躍的な活躍が、今日の岩手の美術界を支え続けたといっても過言ではありません。
本展は、東北は無論のこと北関東以北でも他に類のない美術立県となった岩手の美術風土を彩った代表的な美術家の方々で構成するもので、地方の美術土壌を育んだ多彩な表現性のありようを見直す機会になれば幸いです。