素描(スケッチ)はおおよそ二つに別けられます。一つは、当初から展覧会等に出品する本画制作を目的として描いた素描。もう一つは、日常生活の中で、画家が興味や関心を持ったものを描いた素描です。小野竹喬が、「スケッチは作家其人が面白いと感じた所を、正直に写しとるのでなければ、活きたスケッチとはならないのである」と語るように、多くの素描には画家の素直な気持ちが表れています。
画家に限らず芸術に携わる者は、日々の身辺で目にする素朴な自然の息づかい、また到来する季節の花や果物など、新鮮なその表情をすぐに心に止めたいという衝動にかられます。
本展覧会では、画家がどのような眼差しで対象に面白みを感じ、スケッチしたのかを、当館が所蔵する作品を中心に、小野竹喬(1889~1979)、土田麦僊(1887~1936)、山口華楊(1899~1984)、岩倉壽(1936~2018)などの日本画家の素描、約80点により紹介します。素描から完成作(本画)に到る道は、画家にとってなかなかに厳しいものです。対象との出会いの喜び、そしてスケッチの楽しさ、その素直な心持ちを賛嘆してください。