牛島憲之(1900~1997)は熊本市に生まれ、1919年に上京して葵橋洋画研究所に入り、1922年に東京美術学校西洋画科に入学、在学中は岡田三郎助の教室に在籍しました。1927年に帝展初入選、1946年の日展で特選を受賞したのち、1949年に須田寿らと共に立軌会を結成、官展からは距離を置き、主に同会で作品を発表するようになります。1965年に東京藝術大学教授に就任、1983年には文化勲章を受章しました。
幼いころから画家を目指した牛島は、画業の初期では里山の自然や水辺などを丸みを帯びた形態で表現し、戦後にはガスタンクや工場などの堅固な構造物のある風景も描きました。生涯海外へ渡ることなく日本で制作を続け、その情趣をとらえた作品は、穏やかな曲線と溶け合うような色彩へと到達し、見る者を深い内省へと誘う静謐さをたたえています。
一方、当館の顕彰作家である荻須高徳は、牛島と同じく1922年に東京美術学校西洋画科へ入学、在学中は牛島とは異なり、藤島武二の教室に在籍しました。卒業後は両者とも同級生で結成した上杜会(じょうとかい)で作品を発表し、荻須は1986年に文化勲章を受章しています。荻須はパリを拠点とし、流行に流されることなくパリの街角を力強い筆致で描き続けました。両者の作風は異なるものですが、自ら定めた画題に真摯に向き合い続け、パリと日本でそれぞれ活躍した二人の画歴からは当時の洋画壇の一端を感じることができます。
牛島の作品は、柔和で包み込むような印象を与える一方で、既成概念にとらわれない構図やモチーフが丹念な筆致で表され、画家が常に自らの表現を探求し、発展を続けていたことがわかります。本展では、風景を見つめ、一途に制作に取り組んだその深遠な世界を、牛島憲之記念館を擁する府中市美術館のコレクションによって紹介します。