英国の風土が生んだスリップウェア
白色や有色の泥漿状の化粧土(スリップ)で文様を描き出す手法によって作られた陶器「スリップウェア」。英国でスリップ手法が行われ始めたのは十七世紀半ば頃といわれ、同世紀半ばから末には、トーマス・トフトやラルフ・シンプソンら有名陶工が活躍、スリップ手法を駆使した在銘の装飾大皿が残されています。
十八~十九世紀にかけて、スリップウェアの伝統はスタッフォードシャーを中心に各地の窯場に受け継がれ、スリップによる抽象文様や線文様が自由に活々と描かれた、簡素で健康な美しさをもつ無銘の日用雑器が数多く生産されました。しかし、英国の風土から生れ、多くの家庭で愛用されたこれらのスリップウェアも、十九世紀後半には確かな光を失い、二十世紀初頭には製作・生産が途絶えてしまったのです。
どの国よりも多く日本に渡って来ている英国スリップウェアの全貌と魅力に光をあてる本邦初の試みがついに実現しました。本展では、東京・日本民藝館の所蔵品を中心に、各地美術館や個人所蔵家諸氏の出品協力によるスリップウェアの優品一四〇余点を一堂に展覧し、その魅力に迫ります。二〇〇三年秋、待望久しい英国の古陶・スリップウェアとの出会いをご堪能下さい。