昭和の初期、浦和はアトリエ村のようだと言われていました。当館では、そこに集まった美術家たちを紹介し、その様相を探っていますが、3回目のあたる本展では、洋画家の高田誠、そして児童文学者の石井桃子に焦点を当ててみます。
二人はほぼ同時代に浦和・中仙道沿いにある旧家に生まれ育っています。高田は、旧制中学在学中に「浦和風景」を描いて二科展に入選し、注目を浴びました。一方、多くの優れた児童文学を世に送り出した石井は、著書「幼ものがたり」で、浦和で過ごした幼少時代を描いて高く評価されています。
二人には、画家と文学者の違いを超え、共通して強く印象を受けた場所があります。都心への通勤通学途上に位置し、多くのさいたま市民にお馴染みの<赤羽>はその一つです。高田はその起伏のある地形に惹かれ、その夕暮れ時を独特の筆致と鮮やかな色調で表しました。この鮮やかな暮色は、この作品以降、多くの高田作品で見ることができます。石井も、浦和への帰り路、赤羽駅の高いプラットフォームで見た空から、あのベストセラーとなった著書「ノンちゃん雲に乗る」の着想を得たと言います。
本展では、高田が描いた浦和近辺の風景画と石井の回想記とを照らし合わせ、二人に響きあう感性に迫ってみたいと思います。