群馬県立近代美術館所蔵の戸方庵井上コレクションは、故井上房一郎氏(1898-1993)により寄贈された日本・中国の古美術コレクションです。生涯を通じて群馬県の文化振興に大きく貢献し、ブルーノ・タウトを高崎で援助したことでも知られる井上氏は、美術館への寄贈を念頭に、日本美術の歴史をたどる系統的な作品収集を行いました。中世・近世の日本美術に影響を与えた宋・元・明時代の中国絵画にはじまり、室町水墨画、江戸時代の琳派、狩野派、写生派の作品、さらに肉筆浮世絵、文人画、書を含む計229点のコレクションは、井上氏の透徹した審美眼によって、時代と分野を横断した多彩で幅広い内容となっています。また、現在、住友財団の助成と文化庁の補助を受けて修復中の伝蛇足作《山水図》対幅など、国の重要文化財が含まれることも特筆すべきことでしょう。
12年ぶりの全容公開となる本展では、主要作品約60点の展覧に加え、伝蛇足作品の修復過程もパネルでご報告します。さらに、初の試みとして、群馬県立女子大学と連携し、企画ならびに作品調査を同大の芸術学研究室の榊原悟教授とその学生たちと進め、その成果を会場内の8つのコーナーで発表します。美術館と大学という、美術史研究の2大拠点による共同企画・展示は、近年求められている地域の教育・文化施設間の連携の実践であるとともに、学究活動としても実りあるものとなるでしょう。
戸方庵井上コレクションは開館当初より所蔵品の礎として当館と歩みをともにしてきました。開館30周年を来年度にひかえ、本展が同コレクションの新たな魅力をお愉しみいただく機会となれば幸いです。