公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第267回として、「描きて雪(そそ)ぐ 岡野亮介展」を開催いたします。
洋画家・岡野亮介さんは高校生の頃から独学で油彩画を、社会人になってからはアクリル絵具を用いて描くようになり、現在は水彩連盟運営委員として県内外で活動しています。
アクリル絵具は透明度が低いため油絵具のように色を重ねて重層感を出すのは難しいといわれます。岡野さんはこの弱点を補うため、下地に幾層もの絵具を重ね、擦り出し、箔、シルクスクリーンやコラージュなど様々な技法を用いて抽象と写実を併存させた緊張感のある画風を確立しています。
岡野さんは植物、卵、横断歩道などモチーフにそれぞれ意味を持たせています。裸婦や鳥の巣は命を生み育むものとして描かれ、横断歩道を奥に向かう通行人の後姿は生を受けた時から死に向かって歩いていく私たちの営みを象徴しています。モチーフの構成によって画面の奥へと鑑賞者の視線を導き、モチーフに含ませた意味により再び手前から循環する独特の構図を展開し、夜が明けて再び始まる一日、時を経て巡り来る季節、人が死してまた次の命が生まれていくといった「移ろいゆくもの」を表現しています。
岡野さんが影響を受けた詩人・吉野弘(1926-2014)の「雪の日に」は、はげしくふりつづける雪の悲しみを描き出しています。おのれの汚れを覆い隠して成り立つ純白の世界が穢れのない美しい雪の世界と信じられている雪の悲しみは、白さが際立つほどにふる雪の意味が重くなります。岡野さんはこの詩に自身の創造を重ねて共鳴し、日常の中で感じる悔恨や穢れを雪(そそ)ぐように、色やコラージュ、モチーフを重ね描き続けていくのです。
今展の前期は初期から2014年まで、後期は2014年から現在までの作品で構成し、合計16点を展示いたします。
公益財団法人常陽藝文センター