戦後40年にわたって、日本各地に残る伝統的な草屋根の民家を描き続けた画家、向井潤吉(1901-1995)。その作品の多くは、向井が現地を訪ね、実際の民家を前に制作されたものです。
屋外での作品制作は、季節やその日の天候など、さまざまな自然条件に左右されます。風に揺らぐ草木、流れる雲、刻一刻と変わる光の加減など、向井は絶えずうつろう眼前の光景を、誇張のない的確な筆さばきでキャンバスに描き留めていきました。
一方、アトリエで大作を手がける際、向井は現地で制作した作品を土台に、構図を入念に検討し直し、より緻密な筆遣いで丹念に描き上げていきました。こうして完成した大作は、向井が旅先で感得した現場の印象を、時を置きゆっくりと熟成させ、より理想化した風景として再構築したものといえるでしょう。
本展は、現地制作の作品とあわせて、行動美術協会展出品のためにアトリエで手がけた大作を展示します。それらの比較を通じて、向井潤吉の風景へのまなざしと、絵画を制作するうえでの構成や表現の工夫を探ります。