メスキータの日本初回顧展を開催します。サミュエル・イェスルン・デ・メスキータ(1868~1944)は、19世紀末から20世紀初頭のオランダで活躍した画家、版画家、デザイナーです。大胆に単純化された白と黒の画面を特徴とし、見る者に強い印象を残します。知的に構成された木版画をつくる一方で、メスキータは幻想性に満ちたドローイングを描き続けました。その表現はシュルレアリスムにおけるオートマティスム(自動記述)の先駆けともいわれます。
ユダヤ人だったメスキータは1944年1月31日の夜に家族とともに家から連れ去られ、ほどなくしてアウシュヴィッツ強制収容所で生涯を閉じました。メスキータの教え子のなかに、だまし絵や数学的なパターンの版画で名高いM.C.エッシャーがいます。メスキータが連行されたことを知ったエッシャーは、敬愛する師の作品200点ほどをアトリエからひそかに持ち帰り、戦争中も守り抜きました。ほかにもメスキータの息子の友人らが作品の継承に務めました。メスキータの名前と作品が今日まで残ったのは、そうした人々の努力があったからです。この展覧会は、メスキータの日本における初めての回顧展です。悲劇にも負けずに残された作品の魅力に触れる絶好の機会です。