里中英人(1932~1989)は、笠間で活躍した造形作家です。
戦後の陶芸では具体的な用途を持たず、メッセージ性を前面に押し出した前衛陶芸が制作されるようになります。里中はその中心的なグループであった走泥社に参加し、陶の特質を活かした様々な表現を追求しました。
里中は1971年の第一回日本陶芸展に「公害アレルギー」を出品し、外務大臣賞を受賞。これを皮切りに公害問題をはじめ、当時の社会問題に切り込んだ作品を手がけました。その中には異なった土で成形した複数の唇が、窯の中で異なった変形をする形を留めた作品や、ワイングラスが溶けた姿をそのまま作品にしたものなど、焼成のプロセスそのものに注目した、斬新なアプローチによる作品が数多く含まれ、造形として迫力あるものとなっています。
当館では2011年よりご遺族から作品のご寄贈を受け、常設展示等で作品を紹介してきました。これらの作品の中には経年による傷みや汚れの激しいものも含まれており、茨城県陶芸美術館の開館20周年記念事業として、2018年より3か年をかけてすべての収蔵作品について修復及びクリーニングを行い、制作当時に近い姿へとよみがえりました。今回の展示ではそのお披露目も兼ねて、所蔵作品15件より里中の制作の軌跡を追います。