この度、浜田市世界こども美術館で開催する『日本画の未来』展で紹介するのは、私の芸大教員36年を含めた50余年に渡る画家生活の中から、記憶にはっきりと感動を覚えた作品のみを作家の皆様にお願いして蒐集したものです。
なぜこのようなことをしたかと問われたら、私の自分では自覚しない石見人の気質がそうさせたのだと思います。著書『石本正 青春時代を語る』(2001年発行)にも書きましたが、以前ある美術館の館長さんが私のところに来られ、「今度自分の美術館で一部屋先生に任せるから考えてほしい」と言われました。私も、これは大変良いことだと承諾し、学生の絵で良い作品を集めて展示したらすばらしい部屋ができると思いました。当時の京都造形大学学長の河北倫明先生に相談したところ大賛成で、早速日本画研究室の渡辺武蔵君、竹内浩一君、吉川弘君、それに私の4人でまずはデッサンからと学生の作品の中から5点を選び、一度学校で買い上げ、それをいずれその美術館に渡す手筈にしていました。
しかしその館長さんのねらいは私の作品でしたので、この計画は立ち消えになりました。今その時のデッサンは研究室に残っていますが、到底今の私には描くことのできない、瑞々しく気品のあるデッサンです。学生には欲がなく気力があり、それが素直に作家と対象との心の交流となり、見る私達に訴えかけてくれます。
東京のブリヂストン美術館にある青木繁の『海の幸』は、真ん中に自分の恋人をはっきりと描き、他はほとんど線のタッチで描いた作品ですが、私はその前に立つと、いつも言い知れぬ感動を覚えます。
この度の作品は、作家の若い時の作品が多く、表現方法もみな違っています。画一的になりすぎ、またそれ以外は認めようとしない現代の画壇に、浜田から新風を吹かせたいものと思います。絵は技術ではなく心なのです。