参加アーティスト:遠藤薫、碓井ゆい、林介文(台湾)
アジアを拠点として手芸や工芸、伝統文化の技術をもとに現代美術の活動をするアーティスト3名が、青森市が所蔵する布にまつわる文化や歴史のリサーチを基に、新作を発表します。
人は産声を上げるときから死ぬまで、布につつまれています。それは物理的にも精神的にも私たちを守るものであり、何者かを示すものでもあります。世界各地でその土地の風土に合わせ、様々な布が作られ使われてきました。布を作るためには動植物を引き裂いて皮を用いたり、繊維を取り出し紡いだり、織ったり、編んだり。まとうためには布を裁って縫い合わせたりと、破壊と再生が繰り返されています。かつてフランスの思想家ジョルジュ・バタイユは、大地の「裂け目」である洞窟のなかで、先史時代に壁画を描くことで人間性が獲得されたこと、労働の有用性を否定することで遊びとしての芸術が誕生したことを語りました(*1)。
本州の最北端であるここ青森には、厳しい冬があるからこそ生まれた、独自の豊かな文化が存在します。布に関わるものでは、裂織や刺し子、ボロなど。それらは農村の暮らしを反映したものであり、制約のなかで色や柄を工夫する手仕事の楽しみでもあり、時にジェンダーなど規範意識との戦いでもあったでしょう。決してこれらについて、簡単にアートだと言いたいわけではありませんが、作ること身につけることの歓びや、ものが多くを語りかけてくることは事実です。
当館で行ってきた「青森市所蔵作品展」の流れを汲む本展では、アジアを拠点として手芸や工芸、伝統文化の技術をもとに現代美術の活動をするアーティスト3名が、青森市教育委員会が所蔵する民俗資料(*2)から発想した新しい作品、文化財を用いたインスタレーションを展観します。どうやら戦前の女子教育や戦争と花火、台湾原住民族と日本の関わりなど、現在と地続きである人々が生きてきた時代について考えることになりそうです。
ものそれ自体から、そしてそれから生まれた表現からも多層的に開いていく裂け目。この傷口を覗き込むことで、国家や民族、家族といった共同体を超えて、それでもひとりでは生きてゆけない私たちが、時をこえてつながる交感の場になればと思っています。
*1 ジョルジュ・バタイユ『ラスコーあるいは芸術の誕生』1955年
*2 青森市歴史民俗展示館 稽古館が収蔵していたものが、現在は市および市教育委員会文化財課に移管されている。展示館は1977年に財団法人稽古館として開館、1998年青森市に移管された歴史民俗系の博物館。田中忠三郎も館長を務めた。2006年に閉館。