昭和3年、上京後ようやく帝展に初入選を果たした棟方は、すぐさま報告に帰った久しぶりの青森で、従弟と津軽半島一周の旅に出かけました。龍飛での一夜が明け、最北端の龍飛崎から、遥か彼方の東京まで山々が連なっていることに感動し、絵を描きたい衝動に駆られ、岩頭にカンバスを立てると津軽の海や山を描いたといいます。「今のわたくしに海、山の広い大きな世界をひらかせてくれたのは、津軽半島一周の因縁でありました。津軽の旅路の贈ってくれましたものを、いつまでもいつくしんでいます。」と回想するこの旅は、その後の棟方作品に少なくない影響を与えています。
日本海、津軽海峡、太平洋と三方を海に囲まれ、八甲田や岩木山、恐山などの個性的な山で知られる青森に生まれた棟方は、八甲田に足繁く通い、合浦公園から海と山を臨み、繰り返し写生して風景を心に焼き付けました。棟方にとって海と山の雄大な大自然は、天地のもろもろを含む森羅万象、生命の喜びまでも連想する大きな世界であり、生涯想い描き続けました。春の展示では、故郷の海と山や、それらから想を得た作品、また、どこに旅をしても筆を走らせてしまう海と山のある風景を紹介します。