19世紀の初めに実用化された蒸気機関車による鉄道は、近代科学技術の重要な発明であり、物資の輸送手段として、また革新的な交通手段として、人々の行動半径を一挙に拡大するような大転換をもたらしました。鉄道という視点から近代美術を見直すと、鉄道開発時代の沿線風景版画はもとより、イギリスの風景画やヴィクトリア朝の風俗画、ドーミエの漫画やフランスの印象派による都市風景や田舎の風景、さらには未来派の速度のイメージや、シュルレアリストの心象風景にいたるまで、実に多様な展開を見せていることに気づきます。近代の日本においても、鉄道錦絵を始めとして、記憶に残る絵画や版画が少なからず存在していますし、また、ポスターや写真、映像などのメディアでも、鉄道の速度や機械の美が重要なモティーフになっていることも忘れることはできません。
本展は、19世紀のイギリス、フランスを皮切りに、20世紀のアメリカや戦前の日本に至るまで、鉄道に関わる作品を、初めて本格的に集成した展覧会です。欧米から日本までの作家約130人による、絵画、版画、写真あわせて、約200点を展観いたします。それによってさまざまな近代をめぐる表現が、鉄道という新しい視点から、鮮やかに浮かび上がってくることでしょう。