「青い闇」には、現実を痛切に生きる人の苦行と共に、この世から抜け出てゆく人間の軌跡もまた、最も物質的な抽象の色である青を通し鮮やかに写しだされている。 伊藤俊治(美術史家・東京藝術大学教授)
小谷泰子の自写像との出会いは25年前の震災からである。「兵庫アートウィーク・イン東京地震のあと生まれた芸術」(1997:新宿パークタワーギャラリー)をプロデュースし、「現代美術作家選抜展ー潮風・アート」を同年、海文堂ギャラリーで開催した。その後も「震災と表現」に関連して小谷作品と出会ってきた。
画家にとって自画像は自身に向き合うという行為において、日常のなかのクレバスに落ち込むような体験であり大切なジャンルだ。小谷の「自写像」は自身の裸像を自撮りし、体験してきたあらゆる思考や感情が複雑にからみあいながら生きることの生々しさが静謐な世界に沈積していく。
「青の断片」から長い沈黙をへた今回の「青い闇」へ。刊行された「Blue Darkness Yasuko Kotani」(赤々舎)を繰り返し見ながら、断絶が伝える雄弁さにも圧倒される思いがした。
パンデミックの危機にある今、小谷の無限、無明の宇宙に身を晒すという表現は、阪神大震災が露わにした亀裂を、さらに全ての人々が、自ら深淵を覗き込んでいることを受け止める。 島田誠