豊かな自然に恵まれ、四季が存在する中国や日本では、季節の風景は画題として古くから描かれてきました。いわゆる“四季山水図”はもちろん、特定の場所を描いた“瀟湘八景図”のような作品でも、画中には気設がおり込まれています。なかでも冬は、墨だけで描き分けるのが難しい春から秋と比べ、単色でも十分に描写が可能な季節です。冬を象徴する枯れ木、どんより曇った冬の空、厚く降り積もる雪の景などは、モノクロームがもつ叙情性や寂寥感にうってつけのモチーフであるといえるのです。このような理由からか、冬の景は室町時代の水墨画にも多く描かれています。そしてそれらのなかには、名作ともいえるものも少なからず含まれています。
今回のテーマ展では、特に冬の景を描いた館蔵品のなかから、室町時代の雪村周継から幕末明治の田崎草雲に至るまでのさまざまな画師の作品を紹介します。展示した資料を通して、墨色表現の豊かさや個々の作家の魅力を感じ取っていただけたら幸いです。