岸田劉生(1891~1929)は、38年間の生涯に驚くべき集中力で、充実した幾多の名作を残した、日本近代の巨匠と呼ぶのにふさわしい画家です。
岸田はその20年ほどの短い画業のうちに、自身の表現を次々と変化させ、一つの作風に停滞することがありませんでした。穏やかな風景の描写から出発して、当時最先端だった西洋の表現主義的な傾向に同調した後、今度は時代に背くかのように北欧の古典的な細密描写に接近してゆきます。その写実表現を突き詰めてゆく中で、岸田は独自の緊張感と精神性をたたえた秀作を生み出しました。
同時に一方で、日本の古美術や古典芸能への関心を高め、それは表現にも変化を与えます。東洋風の神秘的でミステリアスな油彩画から、やがて実際に日本画の筆をとって作品を描くようにもなり、晩年の岸田は、むしろ日本画を描くことの方が多くなりました。
本展覧会では、岸田の西洋美術の受容から東洋的な美の表現への移行に注目し、油彩画だけでなく装丁や日本画作品にも重点をおいて、その芸術を振り返り、紹介します。