その生涯を通し、少年のような純粋さを持ち続けた画家、猪熊弦一郎。1902年香川県高松市に生まれた猪熊は1922年東京美術学校に入学。学生時代から帝国美術院展に入選を果たすなど、若くしてその頭角を表しています。因習的な帝展のあり方に反対の立場をとり、考えを同じくする仲間達と新制作派協会を創立。新制作派協会は結成当時、その純粋な志と清新な作品によって若きモダニスト達として注目を集めました。その後の猪熊は日本国内に留まらず、第二次世界大戦の始まる直前のパリに渡り、フォービスムの巨匠アンリ・マティスに直接指導を受け、帰国後は鮮やかな色彩による人物画、当時飼っていた猫を用いた半抽象の作品を繰り広げました。また、1955年からはアメリカに居を移し、抽象表現主義が開花したニューヨークで抽象画家としての新たな境地を切り開いていきました。健康を害した晩年は冬の間を気候の温暖なハワイで過ごしながら、亡くなる直前まで精力的に創作活動を行っています。70余年にわたる長い画歴の間に制作された作品群は、猪熊の未知なるものに立ち向かった挑戦の記録とも言えるでしょう。
このたびの展覧会では、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、愛知県美術館、香川県文化会館、高松市美術館からも秀作をお借りし、初期の具象画から抽象画家へと変貌を遂げた成熟期、そして具象抽象の境地を超えた晩年までの作品を展示することで猪熊芸術を回顧するものです。