北海道が春を迎える頃、奈良原一高(1931-2020)は函館近郊当別のトラピスト修道院にいた。わずか9日間の撮影で「沈黙の園」は生み出された。それは、自ら祈りの生活に入った修道士の世界。一方、和歌山県婦人刑務所では、罪を犯して強制的に収監された女囚たちの世界「壁の中」を撮った。この二つの囲壁の中を対比させた「王国」を、奈良原は二度目の個展として開催した。1956年、初個展「人間の土地」で戦後日本の写真表現を一新する衝撃を与えた奈良原は、1958年、「王国」で日本写真批評家協会新人賞を受賞した。26歳の秋のことである。
「人間の土地」展が契機となって、若い写真家たちが集結し「10人の眼」展が開催された。1959年には、川田喜久治、佐藤明、丹野章、東松照明、奈良原一高、細江英公の6人が、写真のセルフ・エイジェンシー「VIVO」を結成していく。戦後の写真新時代の幕開けだった。
この展覧会では、1995年、作家本人に「王国」の決定版をお願いして完成した149点全点と、VIVOの作品・資料をあわせて約170点展観する。
2020年1月19日、奈良原一高氏は88歳で逝去されました。
心よりご冥福をお祈りいたします。