深沢幸雄は1924(大正13)年に山梨県で生まれ、東京美術学校(現・東京芸術大学)を卒業後、千葉県市原市舞鶴に移住、ここにアトリエを構え、美術教師をしながら当初油絵を描きました。しかし、戦中に痛めた右膝の骨の疾患によって油絵の大作制作が困難となって以降、駒井哲郎、浜田知明らの作品に見せられ、1954年より独学で銅版画に取り組みました。以後そのすぐれた銅版画の技法を駆使して、数々の魅力的な作品を制作、日本を代表する銅版画家として、国内外の展覧会に多くの作品を発表、今日にいたっています。
本展では、初期の内面の追及と技法の模索から生まれたモノクローム版画から、メキシコ古代文明に対する共感から一挙に昇華した強烈な色彩版画へと移行、ついで自己の祖先モンゴロイドに見る壮絶な歴史叙事詩の展開、その後一点してメゾチント技法が生み出すやさしい心象叙情詩の世界、さらには1990年以降の、そのメゾチント主流の表現にこれまでの様々な技法を取り入れ、新しい可能性を追求した人間賛歌に至るそれぞれの時期を代表する作品181点を紹介します。ここには自己の様式を確立した後、その版画世界に充実と深化をもとめた宮沢賢治『春と修羅』、アルチュール・ランボー『酔いどれ船』など銅版画集全10冊が含まれています。これら深遠な詩情を秘める銅版画はわたしたちを静かな感動へと導かずにはおかないでしょう。