アートコートギャラリーでは、彫刻家・西野康造の新作展「空を歩く」を開催します。
チタンやステンレスを素材に、繊細かつダイナミックな造形表現で、独自の自然風景を創出してきた西野康造(1951-)。本展では、中空に浮かぶ直径7.2mの円環《宙に架かる2020》や、約10mの水平ブリッジが脚元に浮遊する《Walking in the sky》 などのトラス構造の新作を発表し、空中を人々が歩くイメージで空間を構成します。
空や風やなどの自然事象をテーマに、西野は量感を抑えた構造美で時空の広がりをみせる大型彫刻を中心に1980年代半ばより創作活動を続けています。時代の流れに翻弄されず内から自然と湧き出るものを待ち、空や宇宙への憧憬や畏怖を原点に制作へと取組む西野にとって、空は多くのインスピレーションを与え続ける大きな存在です。空に吸い込まれていくような感覚を味わった少年期の体験、日が暮れていく空の眺めや飛行機から見た雲上の景色など、西野の中にあるさまざまな「空の記憶」は作品の輪郭となり、微妙なカーブを描く金属の線一本一本に表されてきました。
さらに、円環は永遠をイメージするかたちとして、長年に渡り西野が手掛ける代表的なモチーフの一つです。支点から弧を描き、先端に向かって極限まで細くなっていく線は、そのまま周囲の風景にとけこみ雄大な空へと眼差しも意識もつながっていくように感じられます。自然と戯れる有機的な動きで独自の時を刻む西野の造形は、設計図無しにすべて精緻な手先の感覚で生み出されたものです。大成した今もなお、西野は造ることによる向上と喜びの発見に余念がありません。
2013年夏、ニューヨークの4ワールド・トレード・センタービルに設置した《Sky Memory》*1 について、西野は「浮いて見える作品自体が空となり、空が我々、少なくとも僕を見つめているように感じ」*2 たと後に語り、この頃より作品に内在する「空の記憶」には、「大いなるものに抱かれながら生きている人間をも表現する」*3 ように、人の尊さや温もりが表されるようになりました。そして今、西野が見せる「空を歩く」とは、どのように体感し得るものとなるのでしょうか。
また、1986年~94年に制作し大きな共感を呼び注目を集めた、楽器をモチーフとする作品シリーズより、数点を30年ぶりに展示します。西野がその後飛躍的な展開を見せることとなる大型彫刻のための試みがすでに始まっていることを示す作品です。ご注目ください。
*1 西野康造 《Sky Memory》 2009-2013年、チタン合金、直径30 m
ニューヨークの9.11メモリアルパークに面して建造された「4 ワールド・トレード・センター」(設計:槇文彦)のエントランスロビーに設置されたパブリックアート。空には人の心を慰める力があることを信じ、揺れ動く世界が国境を超えて一つとなる未来に願いを込め、直径30mの2つの円弧が漆黒の石壁への映り込みによって巨大な円環に見えるインスタレーションとした。
*2, *3 西野康造インタビュー(聞き手 大橋恵美)
『LIXIL ART NEWS No.360 西野康造 Space Memory』2014、LIXIL GALLERY、東京