土屋公雄は、1955年福井県生まれの彫刻家、環境造形アーティストです。一貫して「所在・記憶・時間」をテーマとし、流木や自然木を集積する原始的で神話的な作品、解体された家屋の廃材や灰を精緻かつ大胆に構成する作品を発表しています。そんな土屋は2020年3月に愛知県立芸術大学を退任します。本展はそれを記念するもので、土屋初の日本家屋での個展となります。
会場となる古川美術館の分館 爲三郎記念館は、創建85年を超える歴史を有した数寄屋建築で、本館の古川美術館の初代館長・古川爲三郎の自宅でしたが、没後に記念館として公開しています。長い歴史を持つ建物だけに、多数の記憶も有しています。そんな爲三郎記念館を舞台に大型作品の多かった土屋が今回あえて展示の場として数寄屋建築の爲三郎記念館を選び、『ときめきの庭/記憶の部屋』と題し展示を展開。作品は手の中に収まるサイズですが、その作品は土屋の内に広がる広大な記憶の海につながっています。その記憶の海から現れ出たものが“山”という形となり室内に広がります。この“山”は本展の核心となるものであり、古来日本人の山であり、やまと絵などで描かれてきた“日本の山”です。そして展示ではこの山だけでなく、いくつものイメージが重なり合い展開していきます。その展開する場こそが『ときめきの庭/記憶の部屋』なのです。ここで作品に出会った鑑賞者は、作品に込められた土屋の記憶に触れることによって、自身の記憶よみがえらせ、作品と交差させ、新たな感動を味わいます。本展は土屋の記憶だけでなく、それを鑑賞する多くの人々の記憶をも有する“庭”となると同時に、過去から未来へとつながっていく土屋公雄の新しい世界を体感する“部屋”でもあるのです。