2020年、東京画廊+BTAPは開廊70周年を迎えます。節目の年、最初の展覧会として、宇野雪村展を開催いたします。
戦後の前衛書運動を牽引した宇野雪村は1912年、兵庫県生まれ。1932年に御影師範学校(神戸)に卒業し、書道誌『書鑑』の購読をきっかけに書を志しました。1932年ごろより上田桑鳩の指導を仰ぎ、1940年、桑鳩を代表とする芸術研究団体・奎星会の結成に参加。戦中・戦後を通して前衛書運動の発展に尽力しました。この度、ご遺族の協力を得て、東京画廊での展覧会が実現します。
雪村は、書の原点である古代中国の文化を熱心に研究し、収集した拓本の一部は没後、北京の故宮博物院に寄贈されました。中国文明に対する思慕は雪村の書にもうかがわれ、その多彩な前衛的表現は、いずれも、書の古典に基づいた展開として読み解くことが可能です。
雪村が牽引した戦後の前衛書は、文字の意味内容から脱却しようとします。例えば雪村の作品にはタイトルがローマ字で示されているものがありますが、これは同音異字の多い日本語の漢字音をローマ字で示すことによって敢えて曖昧さを生み、表象と意味との対応関係を緩めようとしたものでしょう。造形性を純化させてゆく前衛書は、こうして絵画へと接近していきますが、その一方で書の表現の基本をなす身体性は保持されました。そしてこの身体性こそ、抽象表現主義や具象絵画など、前衛芸術との共通項となります。雪村は西洋の美術家とも盛んに交流し、その活動は書の領域を超えたアートシーンに様々な影響を残しました。
東京画廊+BTAPは70年の歴史のなかで、「摩崖碑拓本展」(1977年)をはじめ、数々の書に関する展覧会を行ってきました。本展開催が、前衛書への注目を高め、日本の近代美術史を再考するきっかけとなればと願っております。