碧南市藤井達吉現代美術館は、2020年2月24日[月・祝]をもって長期の休館に入ります。施設の増築・改修工事を行なった後、2021年秋にリニューアルオープンする予定です。
そのため当館は、今秋から休館までの間、「ECHO/回向」の名のもと、これまでの活動を振り返る事業を実施します。後期にあたる第Ⅱ期は、「人のかたち」の面白さ、不思議さを伝える所蔵品を展示するとともに、2015年に片山照子、繁両氏からお預かりしたご寄贈品の中から代表的な作品を紹介します。また、これまでの展覧会を締めくくる企画展として、新進気鋭の写真家・野村佐紀子(1967-)の美術館で最初となる個展を開催します。日常の陰にある死を意識させるその表現の深さと美しさを、会場でご確認いただければ幸いです。タイトルの「ECHO」は「こだま」のことです。また、「回向(えこう)」は僧侶や自分自身が修得した善根の功徳を他に回し向けることを意味する仏教用語です。当館の取組みが、こだまのように広がり、やがて何かのかたちで戻ってくることを願って付けました。願わくは休館中も皆様からご意見・ご提言を賜り、2021年秋に再び良き船出をしたいと考えています。今後も引き続き、碧南市藤井達吉現代美術館をご支援ください。
野村佐紀子(1967- )は、人物や男性ヌードなどを撮影した、静謐な表現で知られる新進気鋭の写真家です。漆黒のモノトーンの色彩を基調とする中、近年は夜と朝のあわいを想像させる作品や、寝室に横たわるモデルの肢体によって、死と隣り合う人の生の儚さを暗示する写真などが発表されています。野村の作品の魅力は、深度ある写真表現を通して人間と愛の本質を静かに伝える点にあるといえます。
本展のタイトル“GO WEST”は、野村の写真に導かれ、西へと旅する展覧会の構成を伝えるものです。会場では、故郷・山口を起点に、台湾、中国・ハルピン、インド、パリ、スペイン・グラナダなど、旅先で撮影された写真や、展覧会のために準備された新作を巡っていただきます。
野村の写真は、闇の奥に、言葉も音も届かない遠い世界を想像させるという特徴を持っています。眼を閉じて感覚を研ぎ澄まし、彼方の見えない光に想いを馳せること。そのような意識の中の旅が、人生を振り返るために必要になることがあります。本展の会場で野村佐紀子の写真と向き合い、今、此処にある私たちの生の実相について再考いただければ幸いです。