本展覧会は、東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻にて25年間に亘り教鞭を執ってきた保科豊巳の退任記念展です。保科豊巳はまだ学生であった80年代初期から、現代美術の第一線のフィールドで活動してきました。同時に東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻にて後進を育て、研究室から多数のアーティストを輩出させた優れた教育者でもあります。
1953年生まれの保科は、20世紀の激動のアートシーンや思想の生々しさの中を駆け抜けつつも、故郷・長野の風土と深い自然に育まれた身体性を保ち続けてきました。その作品世界は一貫して、東洋的な思想と西洋史のダイナミズムを融合させ、森羅万象に抱かれる自然観をより広い次元に拡張させるものです。1980年代「高山登・川俣正・保科豊巳 三人展」を皮切りに「第12回パリビエンナ一レ」に参加、その後もギリシャ、フランス、アメリカなど世界各国に発表の場を広げてきました。さらに近年では、中国やバングラデシュでの作品発表など、アジアにおいて濃密な発表活動を繰り広げています。
この展覧会は、「ポストもの派」の時代から長く現代に至るまで、20、21世紀の表現の場を駆け抜けた証人のひとり、さらに優れた研究者、教育者、大学における改革者である保科豊巳の、鋭くそぎ落とされた純粋な原点を提示し、その情念的かつ知的な人間性を社会に広く示すものです。