「森田恒友展』は、埼玉県熊谷市に生まれた画家・森田恒友(1881~1933)の画業をたどる、久しぶりの回顧展として開催されました。洋画、日本画、スケッチブック、雑誌など、約250 点を展示しましたが、日本画は作品保存の観点から、会期の途中で一部展示替を行い、前期(2月1日~3月1日)と後期(3月3日~3月22日)に分けてご紹介する予定でした。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、2月29日から臨時休館となり、3月2日に予定通りに展示替作業を行いましたが、結局、最終日まで再び開館することは叶いませんでした。後期展示は、一度もご覧いただけることなく終了してしまったのです。そこで、後期で初公開を予定していた面白い日本画《淀川沿いの街道》をご紹介したいと思います。
恒友は1911(明治44)年から翌年にかけて、大阪の新聞社に勤め、新聞に政治や人々の生活を題材にした漫画を描いていました。この時期に制作された《淀川沿いの街道》では、人物が川沿いを自転車で走る様子が、ゆるやかな線で飄々と描かれています。川沿いには電線が、遠景には土地が見え、人物は向こう側からずっと自転車を遭いできたと想像されます。手前の二羽の鳥は自転車を避けて、あわてて画面の外へ逃げているようです(一羽は画面から半分切れていますね)。新聞社の仕事にも通じる漫画の一コマのようなこの作品には、縦長の画面を生かして、日常の一場面をさらりと切り取る恒友のセンスが感じられます。
加えて後期展示では、ちょうど春めいてくる時期でしたので、晩年の日本画《田園の春》など、季節に合った作品もご紹介する予定でした。晩年の日本面に見られる淡い緑の繊細さや、人物の表情の愛らしさ、そして、恒友が四季折々の自然と人々に向けた温かな眼差しをぜひ感じていただきたかったので、会期途中での閉幕はとても残念でした。いつかまた、恒友の作品をまとめて展示できる機会があればと思います。
また、「森田恒友展」に関連して、MOMAS コレクション第4期では恒友が結成に関わった美術団体・春陽会を特集しました。春陽会は、岸田劉生を中心とする草土社と、明治後期の美術雑誌『方寸』の同人が多く参加した再興院展洋画部という、大正期の2つのグループを主要な母体として結成されました。恒友展と併せてご覧いただくことによって、こうした画家同士のネットワークも感じていただきたいと思い、展示を構成しました。
展示では、関連作家の作品に加えて、会報誌『春陽会雑報』をはじめ、活動の様子が分かるような関連資料も紹介しました。2013年の「たまもの 埼玉県立近代美術館大コレクション展」以来久しぶりの展示となった倉田白羊旧蔵資料は特に反響がありました。会員に向けて貼り出されたと推測される手書きの掲示物を壁に展示してみると、当時の会の賑やかな雰囲気がたちあがってきたことが印象に残っています。(Y.T./S.H.)