将来活躍が期待される若手作家を紹介する小企画展「New Artist Picks(NAP)」。今回は作家、柵瀨茉莉子(さくらい・まりこ/1987年生まれ)の個展を開催します。 柵瀨は一貫して「縫う」ことを表現手段とし、主に木片や木の葉、花びらといった自然物を素材に制作してきました。それはひと針ずつ素材を縫うという手作業を通して、自然物に刻み込まれた時の記憶を辿り、その記憶を目に見える形で留める行為と言えます。
本展では、これまでの作品の展開を追うとともに、生まれ育った佐島(神奈川県横須賀市)を舞台とした作家の個人史をテーマに新作を発表します。それらは、刺繍を教えてくれた亡き祖母への思い出や、自然豊かな土地の開発に対する違和感など、作家の個人的な記憶に由来するものです。一見私的な表現にも見えるこれらの作品には、いのちある全てのものへと注がれた作家のあたたかな眼差しと、やがては朽ちてゆく生命の儚さに寄せた普遍的な共感が満ち溢れています。柵瀨にとって縫うこととは、生きるものと朽ちてゆくものへの祈りと鎮魂の思いを込めた所作であり、その思いを紡ぐ糸の縫い目が、道端に落ちていたら気にも留めないような素材に新たないのちを吹き込んでいます。
会期中にはCafé小倉山でも小展示を行うほか、アーティストトークとワークショップ「木の葉を縫う、持ち歩く」を開催いたします。若手作家のみずみずしい感性による作品を、ぜひこの機会にご覧ください。