数奇はもともと「好き」と同じ意味で、室町時代の歌論書『正徹物語(しょうてつものがたり)』では、道具に美意識を持って茶の湯を嗜む人のことを「茶数奇」と定義しています。
16世紀初頭に茶の湯が成立した後、茶の湯に対する覚悟と禅の精神を取入れた「侘数奇」の理念が確立し、さらに16世紀後半には、侘数奇の理念に従って、なり(かたち)・ころ(大きさとバランス)・ようす(雰囲気)を基準に道具が再評価され、道具に茶人の美意識が純粋に反映されるようになりました。
現在でも、茶の湯では趣向を凝らした道具が多く使用されています。
これは、先の美意識が今も生きているからでしょう。
かたち・色・文様・素材など、道具のひとつひとつに見どころがあり、歪みや疵(きず)といった茶の湯独特の美だけでなく、制作当時に流行したファッションや舶載品の花瓶や食器などからも影響を受けた魅力に溢れる道具も多くあります。
このたび、サンリツ服部美術館では、茶道具の造形美をご紹介する展覧会を開催いたします。茶の湯を嗜んでいる方だけでなく、茶の湯に触れたことのない方も、本展を通じて味わい深い茶道具の世界に触れていただく機会となりましたら幸いです。