木村伊兵衛と土門拳は、ともに日本近代写真界を代表する巨匠です。しかし、両者の個性と作風は大きく異なりました。木村は、小型のライカを使い、自由なアングルから人間の生きた表情を瞬時にとらえ、土門は、被写体を徹底的に凝視し、正面きって相手に真剣勝負を挑むように、ぎりぎりの緊張感のなかでシャッターを切りました。
「カメラとモチーフの直結」「絶対非演出の絶対スナップ」など、独特の言い回しで写真論を展開した土門に対して、木村は、それまで光とその諧調を主流としていた日本の写真界で、社会をドキュメントすることに着目し“リアリズム”写真を実践しました。
土門は、常に木村をライバルとして意識していましたが、1952(昭和27)年以降、雑誌『カメラ』の月例審査を二人合同で担当しました。それぞれの主張に伴い、力を注いで審査をするなかで、全国のアマチュア写真家を育て、写真界に「リアリズム写真」の大ブームを巻き起こす原動力となりました。
本展では、近代写真の生みの親ともいえる木村伊兵衛と土門拳のモノクロ作品をまとめて紹介すると同時に、テーマごとに展示して両者の作風の違いを鮮明にし、それぞれの魅力をご紹介します。