日本の古い絵画には、しばしば「山水」が描かれます。この山水とは、深い山や流れる川などの自然の景観を指しますが、それは単なる風景ではなく、世間のしがらみから遠く離れた脱俗の世界、心ある教養人、「文人」たちの理想郷があらわされています。日本人は古来、こうした山水画を床の間にかけ眺めることで、煩わしい現実世界を忘れ、画中の住人となって山水に遊び、ひと時の心の自由を取り戻すことにつなげてきました。山奥の小道を分け入る旅人、ひなびた庵で読書し友の訪れを待つ文人―。観る人それぞれのチャンネルから画中に入り、描かれた山水を巡り旅することが、山水画を観るときの大きな愉しみの一つであったのです。
本展ではこうした山水画鑑賞の「ツボ」をいくつかご紹介しながら、山水画の豊かな世界をお楽しみいただきます。