わが国特有の発達をみせた茶の湯文化、そして文人の嗜みとして流行した煎茶文化の世界では、中国をはじめ海外から舶載された文物を用い、大切に伝えてきました。そのうちには「金襴(きんらん)」「緞子(どんす)」「間道(かんどう)」など、今日“名物裂(めいぶつぎれ)" と総称されている高級な染織品も含まれ、それらは室町時代以降の唐物賞玩のなかで、絵画・墨蹟の表具裂(ひょうぐぎれ)や、茶道具を包み飾る「仕覆(しふく)(仕服)」となり、茶人たちの鑑賞の対象となりました。
また江戸時代以降、型や手描きによる草花・鳥獣、幾何学文様などを色鮮やかに染めた木綿布“更紗(さらさ)”が、ポルトガルやオランダの南蛮船や紅毛(こうもう)船、中国船などによってもたらされると、これも数奇者たちを大いに魅了しました。とりわけ江戸時代中期頃までに輸入されたインド製更紗の一群は、後世“古渡(こわた)り更紗(さらさ)"と呼ばれ、茶道具では箱の包(つつ)み裂(ぎれ)に、煎茶道具では、茶銚(ちゃちょう) ・茶心壺(ちゃしんこ)の仕覆や敷物として重用されました。
本展は、静嘉堂所蔵の茶道具と煎茶道具に含まれる優れた染織品を精選し公開するものです。永い歴史をへて、今日に美しいデザイン、繊細な手の技を伝える染織品の数々を、この機会にどうぞご堪能下さい。