斎藤巻石(けんせき)(1798~1874)は、四天木(してんぎ)村(現大網白里町四天木)の大地主であり、九十九里を代表する網主です。十二代四郎右衛門を継いだ巻石は、いわしの地引網漁の繁栄で蓄えた豊かな財力をもとに、書画を収集し、海を見渡せる風光明媚な別邸「大洋庵」に文人墨客を迎えて交わりました。交流のあった文人には、漢詩人の梁川星巌(やながわせいがん)や画家の椿椿山(つばきちんざん)、福田半香(はんこう)らがいます。そして巻石は自らも筆をとり、はじめ南乙(なんおつ)、次に粼齋(りんさい)、続いて拳石(けんせき)、巻石と号し、おもに伝統的な南画山水を手がけました。自己の楽しみのために描いた作品は高く評価され、巻石の名は生前より画家番付に載り、大正期には松林桂月(けいげつ)や石井林響(りんきょう)により美術雑誌で紹介されましたが、その後歴史に埋もれてしまいました。
このたびの展覧会では、初期から最晩年までの作品を年代順に展示し、巻石の画業をたどります。涅槃(ねはん)図の大作をはじめ、歴史画など初公開を含む作品の数々をお楽しみください。