この度、多摩美術大学美術館では「野口裕史退職記念展 多摩美術大学金属工芸40年」を開催いたします。本展は、金属工芸の分野における鍛金の可能性に挑む野口裕史の業績を総覧する展覧会です。
ところで、私たちの身の周りには、鍋やヤカンなど実は鍛金の技術を応用して生み出されたものが、たくさんあることをご存知でしょうか。鍛金は、1枚の板を金槌でひたすら叩き、熱し、溶接する工程を繰り返しながら形づくる技術であるため、気の遠くなるような時間とすぐれた技巧が求められます。卓越した鍛金の技術を用いて生み出される、野口の風船のようにゆるやかな膨らみを持った作品の数々は、金属が硬いものであるという一般的な常識を瞬く間に覆すことでしょう。また本展では、野口が確立した鍛金技法による代表作《天空伝説》シリーズをはじめとして、精妙きわまりない中小作品の数々も紹介します。
さらに、野口とともに多摩美術大学で金属工芸の分野を開拓してきた同僚や、卒業生たちの作品展示も同時に行います。鍛金作家としての野口裕史のこれまでと現在、そして多摩美術大学で教育者として歩んできた40年間の軌跡をご堪能ください。