2008年に開館した碧南市藤井達吉現代美術館は、2020年2月24日[月・祝]を最後に休館に入ります。施設の増築や老朽化した設備の保全工事を行った後、2021年秋にリニューアルオープンする予定です。そのため、当館はこれから休館までの間、美術館が歩んできた10年を振り返る事業を実施します。また、休館中も美術の楽しさをみなさまに伝える活動を継続していく所存です。タイトルに付した「ECHO」は、「こだま」のことです。当館が10年積み重ねてきた活動が、こだまのように広がり、やがて何かのかたちで館に戻ってくることを願って付けました。また、「回向(えこう)」の言葉を並べたのは、この仏教用語を思い重ねて活動を進めていくためです。「回向」は、辞書には「回り差し向ける」とあり、僧侶や自分が修得した善根の功徳を他に回し向けることを意味します。当館は、願わくは休館中も未来へのご意見・ご提言を賜り、2021年秋に再び良き船出をしたいと考えています。今後も引き続き、碧南市藤井達吉現代美術館をご支援ください。
作品収集は企画、調査・研究、教育普及、保存と並ぶ美術館活動の柱であり、美術館の性格をつくるものでもあります。当館では「①藤井達吉の芸術を顕彰するのに重要と思われる作品、②藤井達吉の精神を見出せる作家の作品、③地域の歴史や文化を語る上で重要と思われる作家の作品、④市民の美術文化の向上に資する作品、⑤上記の作家や作品を理解する上で重要と思われる資料」の5つの収集方針で活動を展開してきました。
本展では2018(平成30)年度に収蔵された作品をご紹介します。そのなかで少なくない割合を占めるのが、岡清蔵コレクションです。岡清蔵氏(1881-1979)は白木屋の専務取締役を勤めた人物です。白木屋は東京・日本橋にあった百貨店で、元は江戸三大呉服店の一角を占める老舗でした。藤井達吉は1922(大正11)年頃、この白木屋の図案部顧問を委嘱され、一般から募集された図案の選者となったほか、個展も開催しました。岡清蔵コレクションはご遺族のもとにあった品々が一括してもたらされたもので、制作が大正時代に遡ると思われる《羊歯文書棚》や《ランプ》をはじめ、手筥、継色紙など、藤井が没するまで続いた長年の交友をよく示しています。
藤井達吉作品の新収蔵品としては、ほかにそれぞれ愛知県内の個人から寄贈された《紅梅》と《水墨山水図》もあります。購入作品である《春爛漫》と《満山紅葉》は対幅の華やかな日本画、そして《椿の翁》は喜寿記念展に出品された巻子です。
また新日本画研究グループである赤曜会のメンバー、小山大月、富取風堂、牛田鷄村、黒田古郷の作品は、藤井も活躍した大正時代の美術史を証言しています。そのことは後に文化勲章を得た中村岳陵の佳品にもあてはまるでしょう。藤井の同時代人による作品としては、川崎小虎の特質が充分に発揮された屏風作品《岩清水》もあります。さらに戦後の具象絵画を代表するベルナール・ビュフェの油彩、名古屋市出身の真野紀太郎の水彩、長年碧南市に住んだ柴田まさるの蛙をテーマとしたアクリル画、そして木下晋の鉛筆による細密描写の肖像画がコレクションに加わりました。新たに碧南市民の財産となった諸作品を、この機会に是非ご観覧ください。